本文へスキップ

坂本研究室/東京大学生産技術研究所 専門分野:環境音響工学/応用音響工学

〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
4-6-1 komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-8505 Japan

研究業績RESEARCH

研究の基本方針

 建築環境工学の基礎研究では,環境の物理特性の予測及び計測をもとに,対象とする環境を再現し,その環境の中での人間の反応を評価して,環境制御技術の知見を積み重ねていくことが重要です。 環境音響工学の場合,図のように,音場予測,音響計測,音場再現,心理評価,という4つのステップを踏んで研究を進めます。


Fig.0 建築・環境音響工学の研究への取り組み方

このページの先頭へ

音響実験室-基幹設備


Fig.1 A. 音響実験室配置図  B. 4π無響室と3次元音場シミュレーション装置 C. 2π無響室と低周波音発生装置

 音響実験室は4π無響室,2π無響室,残響室,計測準備室からなっている.。4π無響室(有効容積7.0 m×7.0 m×7.0 m,浮構造,内壁80cm厚吸音楔),2π無響室 (有効容積4.0m×6.9 m×7.6 m,浮構造,内壁30cm厚多層式吸音材)では各種音響計測器の校正,反射・回折等精密物理実験を行う他,聴感実験を行うために多チャンネル音場シミュレーションシステムが備えられている。 残響室では,残響室法吸音率測定,音源のパワーレベル測定を行う他,隣接する2π無響室と組み合わせて音響インテンシティ法による透過損失測定を行う。 現在,2π無響室には16台の大口径スピーカで構成された低周波音発生装置が設置され,各種騒音の評価実験に用いられている。 模型実験室は各種の音響模型実験を行うためのスペースで,建築音響,交通騒音などに関する実験を行っている。

このページの先頭へ

音場再現装置


Fig.2-1 環境音の6ch.収音・再生システム(左:システムの概要、右:実験風景(会話のしやすさ))


Fig.2-2 ステージ音響シミュレーションシステム(左:システム概要、右:実験風景)

 音響工学の心理学的アプローチにおいては、コンサートホールの響きから環境騒音まで、さまざまな現実の音を実験室内に再現し、それに対する人の反応を調べる方法が有効です。 そのための手法の一つとして“6チャンネル収音・再生システム”を構築し、種々の心理実験に適用しています。  “6チャンネル収音・再生システム”で環境音を再生する場合には、Fig.2-1左に示すように、前後・左右・上下の6方向に単一指向性マイクロホンをセットし、それを通して収録した音を無響室内に設置した6台のスピーカから再生します。 その中心で再生音を聞くことにより、3次元的な印象を伴って原音場にほぼ等しい音を聞くことができます。 このシステムを応用した研究として、鉄道駅や公共的空間の音環境評価,薬局やオフィスにおけるスピーチプライバシの評価に関する研究を行っています。  同じ原理を応用して室内音場の響きをリアルタイムに再現するシステムとして、Fig.2-2左に示すように、無響室内で発生した音を収音し、別途測定した6方向の音響情報(インパルス応答)に合成してスピーカから再生するシステムも構築しています。 このシステムを用いてコンサートホール・ステージ上の演奏者に対する評価実験を行うことができます。このシステムを拡張し,二室を音響的に連結することによって、ステージ上での二奏者がアンサンブルを行う上での響きの評価を調べる実験も可能です。

このページの先頭へ

数値解析


Fig.3-1 小規模ホールの音場解析の例  Fig.3-2 室内の音波伝搬のアニメーション表示

 より良い音環境の創出や音環境の適切な評価のためには、様々な音場・音響現象を正確に予測・解析する技術が必要です。 本研究室では、コンピューターを用いた音響数値解析、特に音場を正確にシミュレートできる波動音響数値解析に関して、手法の開発やその適用性向上のための研究を行っています。 一般に、音響数値解析には音の時々刻々の伝搬状況をシミュレートする過渡応答解析と、音のエネルギーの流れが安定し定常状態になった場をシミュレートする定常応答解析とがありますが、 建築音響設計では初期反射音の評価やエコーの検知、残響時間や明瞭性の評価などが重要であることから、本研究室では特に時間領域有限差分法(FDTD法)を用いた過渡応答解析手法の開発に力を入れています。 FDTD法は、音場を支配する波動方程式(またはそれを導出するための連続の式と運動方程式)における微分項を差分に置き換えて扱う手法です。 原理的には簡単ですが、計算時間が比較的短く応用範囲も広範なので,本手法を実際の様々な音響設計の場でツールとして利用しています。 屋外騒音伝搬解析に際して開空間の解析を可能にするための完全無反射境界の実現や、多点差分による高精度化など、高精度な解析を行う上で重要となる境界条件の適切な実現などについて研究を重ねています。

このページの先頭へ

室内音響


Fig.4-1 1/10縮尺音響模型実験  Fig.4-2 音響模型実験のための基本相似則

Fig.4-3 数値音響シミュレーションによるオープンプラン教室の室内音響設計と実設計への応用

Fig.4-4 駅コンコースの室内音響特性の実測調査

 建築空間内の音環境の快適性を実現するためには、室内の音響特性を適切に設計する必要があります。 エコーなどの音響障害を防ぎ、室の用途に合わせた残響(吸音)特性を設計するための指針を得ることは重要な研究課題です。 室内音響設計が特に重要な空間としては、コンサートホールが代表として挙げられ、計画・設計段階で適切な音響的処置を施すための予測手法について研究を進めています。 一つは音響模型実験手法によるもので、境界条件及び媒質の吸音などに関する相似則、実験装置などの開発、ディジタル信号処理の応用などについて研究を行うと共に、 実際にいくつかのホールの音響設計に応用しています。Fig.4-1は横浜みなとみらいホールの1/10縮尺模型で、ホールの建設前に、模型内で測定した響きに音楽を合成し試聴する検討が行われました。 もう一つの有力な音場予測手法は、数値解析による音響シミュレーションで、主に時間領域有限差分法による波動音響シミュレーション手法を開発して用いています(音響数値解析手法の項参照)。 音が主役ではないものの良質な音環境の確保が重要な空間として、公共空間や学校施設を対象とした室内音響設計についても研究を進めています。 具体例としては、近年小学校で採用されることの多いオープンプラン型教室の検討を行いました。 教室間の音の伝搬を低減するための教室の配置や仕上げについて波動音響シミュレーション手法を適用して検討し、実際の小学校の設計に応用されました。 鉄道駅では,内装材の吸音不足から喧騒感の増大が問題となることがしばしばあります。まず初めに駅コンコースの音響特性および実環境音/振動を測定し, 天井,床など室境界面の各種対策を施した場合の音場をシミュレーションして評価することによって,駅空間の音響特性の改善効果を検討することができます。

このページの先頭へ

騒音予測


Fig.5-1 半地下構造道路からの騒音放射特性の実測  Fig.5-2 半地下構造からの騒音放射性状(アニメーション)

 静穏で快適な都市の音環境を実現するためには、騒音を適切に制御することがまず第一に重要となります。 適切に騒音対策を施すには、騒音の発生と伝搬の様子を正確に把握しなければなりません。 そのため、環境騒音の予測法の確立は重要な研究課題です。 当研究室では、影響が広範囲にわたる道路交通騒音に重点を置いて、騒音の伝搬予測手法に関する研究に継続的に取り組んでいます。 道路交通騒音の予測法としてはエネルギーベースの予測計算方法が日本音響学会により提案され(ASJRTN-Model 2018)、実務的にも広く用いられています。 しかし,特に構造物が輻湊した都市部等では騒音の伝搬が非常に複雑となり、従来のエネルギーベースの計算方法が適用できない場合も多々あります。 そのような場合に適用可能な方法として音の波動性を精密にシミュレートする方法(波動数値解析手法)の適用可能性を検討しています。 この方法は、原理的に非常に大きな計算機資源を必要とするため、現在のところ対象とする音場の全てを高い周波数まで解析することはできていません。 そこで、主要な断面だけをモデル化して計算の妥当性を確かめたり、効率的な計算方法を模索したり、といった研究課題に取り組んでいます。  都市のレベルからやや範囲を狭めて、建築室内の音環境を静穏に保つための騒音対策手法の開発も重要な研究テーマです。 建築物の騒音対策では、室周壁の遮音性能の確保が最も基本的に重要となります。中でも周壁の遮音性能を総合的に向上させる上で重要なのが、換気口や窓・扉の召し合わせ部分に必然的に生じる隙間部分の遮音性能です。 そこで、これらの隙間を伝搬する音の特性を把握し、効果的に外部騒音の侵入を防ぐ方策を実験的に検討しました。

このページの先頭へ

ASJ RTN Modelの開発

 道路交通騒音は,私たちの生活に最も身近な騒音源であり,社会に及ぼす影響も広範にわたります。 道路交通騒音の予測法としてはエネルギーベースの予測計算方法が日本音響学会により提案され(ASJRTN-Model 2018)、実務的にも広く用いられていますが, 当応用音響工学/環境音響工学研究室は,歴史的に,この予測モデルの開発に深くかかわってきました。

石井聖光名誉教授は,日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会(以下,委員会)の創設メンバーで,1974年〜1978年に委員長を務められました。

橘秀樹名誉教授は,1977年から2003年までの長きにわたり,委員会の委員,幹事,委員長として予測モデルの開発に携わり,1990年〜2003年に委員長を務められました。

坂本慎一教授は,2000年から現在に至るまで委員会の委員,幹事,副委員長,委員長を務め,2011年〜2019年に委員長を務めました。

その間,ASJ Model,ASJ RTN-Modelは改訂を繰り返しながら7度にわたりリースされ,Model 1975(石井聖光委員長),Model 1993(橘秀樹委員長),Model 1998(橘秀樹委員長),Model 2003(橘秀樹委員長),Model 2008,Model 2013(坂本慎一委員長),Model 2018(坂本慎一委員長)が発行されています。

日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会のウェブページに過去から現在までのASJ RTN Modelが纏めてあります。


Fig.6-1 一般道における自動車走行騒音パワーレベルの全国調査

このページの先頭へ

 

低周波/純音性

風力発電施設等に含まれる純音性成分による不快感の評価手法の研究(環境研究総合推進費5-1710)

研究背景

 我が国では,近年,省エネ・創エネに対する社会的要請の高まりとともに,再生可能エネルギの導入や省エネ機器の推進が進められている。再生可能エネルギ源としての風力発電施設や,省エネ機器であ る家庭用ヒートポンプ給湯器が発する騒音には,20〜200 Hz程度の低周波数領域に純音性成分が含まれることがある。それらの騒音は,レベルは低いものの,夜間に住宅地や郊外などの静穏な環境において 長時間にわたって発せられることにより,地域住民からの苦情の原因となっている例が見られる。  風力発電設備から発せられる騒音に関しては,環境省より2017年5月に「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」が策定された。その指針の中で,純音性成分が含まれることによるアノイアンス (不快感)の増加の可能性が指摘されているが,これに対してどのような評価を行うことが適切かについては今後の課題とされている。また,ヒートポンプ給湯器から発せられる騒音にも低周波数帯域の純 音性成分が強く含まれることがあるが,そのような純音性成分を含む騒音と聴感印象との対応については知見が不足している。

研究開発目的

 我が国では,風車騒音,家庭用ヒートポンプ給湯器などの設備機器による騒音の純音性を考慮した評価基準が現在は存在しない。そのような評価基準を提案するためには,我が国の生活環境において純音 性成分を含む騒音に対して人が感じる不快感を定量的に調べ,適切な評価指標を提案する必要がある。また,評価指標の検討に際しては,ISOやIEC等,国際的に議論されている規格との整合性等についても 確認・検討する必要がある。そこで,本研究では,風車騒音や家庭用ヒートポンプ給湯器等の設備機器,自然換気・遮光のためのルーバー等で生じる風騒音に関して人間の感覚(うるささ感,不快感)と良い 対応を示す物理量を求め,それら物理量から構成される騒音不快感の評価指標を構築する。その際,国際規格等との整合性に留意するため,評価指標,評価ランクの選定に対して,国内外の規格及び諸外国 の評価制度との整合性を検討する。また,本研究で提案する評価指標は,地方公共団体職員や事業者が算出して利用することが想定されるため,評価指標の算出と評価を可能とするソフトウェアを提供する。

研究開発の方法
(1)純音のマスキング閾値に関する実験

 3種類の背景騒音と7種類の純音で構成する試験音における純音の強度を変えながら,純音のマスキング閾値を調べた。背景騒音は,音響実験によく用いられる標準的なノイズとしてピンクノイズ,静穏な屋外環境の騒 音を模擬したモデルノイズ(オクターブバンド毎のエネルギが-4 dB/Oct.bandの傾きを有する),屋内環境の騒音を模擬するため,モデルノイズにハウスフィルタ(一般家屋の内外音圧レベル差の実測結果に 基づいて遮音性能をモデル化したフィルタ)を処理した屋内ノイズの3種類を使用した。

(2)純音性成分を含む騒音の大きさ感に関する聴感評価実験

純音性成分を含む騒音の不快感に影響する基礎的な要因として,大きさ感を検討した。

(3)純音性成分を含む騒音のわずらわしさに関する聴感評価実験

 純音性成分を含む騒音の音質に起因する不快感を実験室実験より検討するため,ノイジネスに関する聴感評価実験を行った。 騒音のわずらわしさは,生活環境で受ける印象であるため,音を評価する際に状況を想定した検討が必要である。風力発電施設やヒートポンプ給湯器が問題になりやすい夜間の静穏な住宅地を想定し,下記 の3つの状況を想定した実験条件を作成した。
u (実験3-1)背景騒音の種類(屋外,屋内)とレベルがわずらわしさに及ぼす影響
u (実験3-2)非常に静穏な環境を想定し,就寝時におけるわずらわしさの評価
u (実験3-3)日中に過ごす環境を想定した場合のわずらわしさの評価

(4)純音性指標を測定可能な計測器の試作

 純音性成分の可聴性に関する指標として,ISO/PAS 20065:2016やIEC 61400-11:2012等の国際規格に純音性可聴度(Tonal Audibility: TA)が定められている。スマートフォンによるアプリおよび多機能計 測システムSA-A1(以降,SA-A1)で動作可能なTA計測アプリケーションソフトウェアを試作した。

(5)A特性音圧レベルの評価におけるTonal Adjustmentに関する提案

A特性音圧レベルによる評価におけるTonalAdjustmentについてさらに考察し,評価の指針を提案した。 u Tonal Audibilityが0 dB以上になると,Tonal Adjustmentが正の値となる。
u Tonal Adjustmentの値は背景騒音のレベルおよび種類によってばらつき,背景騒音レベルが低いほど大きくなる傾向がある。
u Tonal Adjustmentの最大値は,純音周波数が100 Hz未満の場合はおよそ3 dB,100 Hz以上の場合はおよそ6 dBとなる。

   

   

Fig.7 純音性成分を含む騒音の評価に関する研究の概要

このページの先頭へ

 

視聴覚

視聴覚高臨場感データ収集・再生システムの構築と環境音評価への応用(学術振興会科研費17H03351)

 実験室実験は,厳密に音響条件が管理された無響室を実験音場として,実験者が刺激をコントロールすることによって被験者の反応を詳細に調べることができるが, 実際の環境中における騒音に対する反応は,音以外の様々な要因にも影響されており,音以外の環境要因を排除した無響室等における反応とは異なることも考えられる。 そこで,視覚情報、特に与えられた音源の視覚情報による状況の理解の影響が大きいと考え,その影響の度合いを定量的に調べるための実験装置を構築した。 無響室内に設置した既存の3次元音場シミュレーションシステムに,立体的に視覚情報を提供できるドームスクリーン型映像投影装置を組み合わせたものである。 そして、騒音の大きさ、および不快感の評価に対して、音源の視覚情報が及ぼす影響を調べた。検討対象とした騒音は,道路交通騒音,鉄道騒音,航空機騒音,船舶航行騒音の4種類である。
 音源に関する視覚情報を提示することによって,大きさ感やうるささ感が低減する傾向が確認された。 これは、実際の生活環境においては視覚情報が伴うことが通常であることを考えると、聴覚情報のみによる実験では正確な影響を評価することができないことを意味する。 定量的には,A特性音圧レベルに換算して,道路交通騒音および鉄道騒音では約5〜6 dB,船舶航行騒音では約3〜4 dB,航空機騒音では約1〜3 dB程度の低減効果であった。

   

Fig.8-1 視聴覚データ収集装置   Fig.8-2 視聴覚実験設備(ドームプロジェクタ&3次元音場再生システム)


Fig.8-3 交通騒音における視覚情報の影響/視覚刺激の例

このページの先頭へ

 


バナースペース

坂本研究室/東京大学生産技術研究所

〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
4-6-1 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-8505